アナログ・テック 技術コラム

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【Hailo実装シリーズ】 エッジAIを本気で動かすための実践Tips <第2回>

Hailo TAPPASとは何か?

— GStreamerパイプラインの構造と設計思想を整理する —


はじめに

前回は、Hailo-8がUbuntu環境で認識されない場合のトラブルシューティングを整理しました。

今回はその次の段階として、TAPPASの構造と設計思想を整理します。

デバイスが動作するようになったあと、多くのエンジニアが直面するのが次の疑問です。

  • hailonetとは何をしているのか

  • hailofilterはどこで後処理をしているのか

  • GStreamerの中でHailoはどの層を担っているのか

  • NVIDIA DeepStreamと何が違うのか

本記事では、TAPPASの構造を実際のパイプライン例を交えながら整理します。


1. TAPPASとは何か

TAPPAS(Template Applications and Pipelines Solution)は、Hailoが提供するGStreamerベースのビデオ解析フレームワークです。

主な特徴は以下の通りです。

  • GStreamerプラグインとして動作

  • 推論処理をNPUにオフロード

  • 後処理を柔軟にカスタマイズ可能

  • メタデータ中心設計

重要なのは、TAPPASは「すべてを内包する巨大なSDK」ではなく、GStreamerエレメント群として設計されている点です。


2. GStreamer全体構造の中での位置づけ

典型的な物体検出パイプライン例を見てみます。

hef-path および so-path は環境に合わせて置き換えてください。

 

 
 
gst-launch-1.0 v4l2src device=/dev/video0 ! \
videoconvert ! \
hailonet hef-path=yolov8m.hef ! \
hailofilter so-path=libyolo_post.so ! \
hailooverlay ! \
videoconvert ! \
fpsdisplaysink
 

処理の流れ:

  1. v4l2src:カメラ入力

  2. videoconvert:フォーマット変換

  3. hailonet:NPU推論

  4. hailofilter:後処理

  5. hailooverlay:描画

  6. fpsdisplaysink:表示

ここで重要なのは、推論と後処理が明確に分離されている点です。


3. hailonetの役割

hailonetは、HEF(Hailo Executable File)を読み込み、Hailo-8上で推論を実行するエレメントです。

役割はシンプルです。

  • 入力フレームを受け取る

  • NPUへ転送

  • 生の推論出力テンソルを返す

この段階では、まだ人間が理解できる検出結果にはなっていません。


4. hailofilterと後処理の思想

hailofilterは、推論出力テンソルを解析し、意味のある構造へ変換します。

例:

  • バウンディングボックス

  • クラスラベル

  • スコア

 
 
hailofilter so-path=libyolo_post.so
 

指定する .so が後処理ロジックです。

この設計のポイントは、

  • モデル変更時に後処理を差し替え可能

  • 独自ロジックをC++/Pythonで実装可能

  • 推論部とロジック部を分離できる

という柔軟性にあります。


5. Metadata中心設計

TAPPASは推論結果を「メタデータ」として管理します。

代表的な構造:

  • HailoDetection

  • HailoClassification

  • HailoROI

これは設計思想として重要です。

映像を直接加工するのではなく、映像に意味情報を付与する設計です。

この構造は、将来的な拡張や連携システムとの統合において有利に働きます。


6. マルチストリーム処理の考え方

複数カメラを扱う場合、以下のエレメントを使用します。

  • hailomuxer

  • hailoroundrobin

概念的な流れ:

  1. 複数ストリームを統合

  2. フレームを順次NPUへ投入

  3. メタデータを付与して各ストリームへ返却

NPUは単体でも、CPU側での並列デコード処理により複数入力に対応可能です。

実際の設計では、推論よりもデコードや描画がボトルネックになるケースがあります。

例として、環境によっては vaapidecodebin などのハードウェアデコードエレメントが利用可能です。ただし、利用可否はGPU・ドライバ・導入パッケージに依存します。環境に応じて適切なデコーダが選択されているか確認することが重要です。


7. NVIDIA DeepStreamとの設計思想の違い

DeepStreamはNVIDIAが提供する包括的なSDKです。

一方、TAPPASはGStreamerエレメント中心の設計です。

比較の観点:

項目 DeepStream TAPPAS
主な対象 GPU NPU
設計思想 包括的SDK モジュール分離型
拡張方法 NVIDIAスタック中心 GStreamerエレメント拡張

※補足:両者ともGStreamerを利用するケースがあります。ここでの比較は、開発体験や設計アプローチの違いという観点で整理しています。

優劣ではなく、設計思想の違いと捉えるのが適切です。


8. 実装時に理解すべきポイント

TAPPASを使う際に重要なのは以下です。

  • NPUはテンソルを返すだけである

  • 後処理設計が精度・性能に影響する

  • CPU側処理がボトルネックになり得る

  • メタデータ設計が拡張性を決める

単に「動くパイプライン」を構築するのではなく、

どの層がボトルネックになるか

を意識することが、安定したエッジAI設計につながります。


まとめ

TAPPASは単なる推論ツールではありません。

  • GStreamerベース

  • 推論と後処理の分離

  • メタデータ中心設計

  • モジュール的拡張性

という思想を持った設計です。

Hailoを本格的に活用するには、HEFを実行するだけでなく、この構造を理解することが重要です。

 

また、TAPPASの構造を理解したうえで実装を進めるには、まずデバイスが安定して動作していることが前提となります。

Ubuntu環境でHailo-8が認識されない場合の切り分け手順については、以下の記事で整理しています。

Hailo-8がUbuntuで認識しないときに確認すべき6つのポイント

シリーズを通して読むことで、セットアップからパイプライン設計までを一貫して理解できます。

 

TAPPAS構成を実際に評価・検証するには、Hailo-8搭載の評価環境が必要です。

開発用途や設置環境に応じた構成相談も可能です。
お気軽にお問い合わせください。

 

次回は、Python API(InferModel / VDevice)を用いた推論実装と、スケジューラ設計について整理します。